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執筆者の写真金森涼子

おにぎりとコッペパン  

更新日:4月14日




あなたは、この1週間風邪をひいて「寒い寒い」と言っていましたね。

それでも会社にはきちんと出勤しましたね。

冬仕度の下着を身につけて。

あなたはいつも頑張ります。家ではお箸以外のものは持ちませんが。

先日はひどい風の中、小学校時代の友人たちとゴルフに出かけましたね。

「25mのパットを決めた」といって友人たちも、

あなたの集中力を絶賛してくれましたね。

あなたは、「神様にお祈りをした」といいましたね。

あなたはここぞという時にはすごい力を発揮しますね。

そんなあなたが私に言いましたね。「君に認めてもらいたい」と。

十分に認めています。尊敬しております。

男としてのあなたに問題はありません。

夫としてのあなたに問題があります。

お正月の準備、大掃除なども、私一人で、し続けておりますね。

子供のことも一人で悩んできましたね。

あなたはいつも「君の話はくだらない」と言い続けて来ましたね。

私は、あなたとの価値観の違いから、自分を見失ってきました。

私が築こうとしている家庭は、

あなたにとっては生産性のないくだらないものなのだと。

私たちは、ペットよりちょっとましな、ペットなのだと。

仕事人間のあなたは、

「お金を産む社会だけがすべてだ」と言っておりましたね。

それでも、私はいつも許してきました。

あなたを愛していましたから。

この17年間、待ちました。

いつか、あなたが大人になる日を。

あなたは出世もして悔いのない人生を歩んでくれました。

形の上では、私も幸せになりました。

家も建ててくれました。

海外旅行も国内の小旅行もいつも先頭に立って計画を立ててくださって、

私たちは形の上で喜び、感謝しました。

あなたには申し訳ないのですが、

それでも私の心は満たされませんでした。




でも4月29日、今日、 私は17年間待った甲斐があったと思いました。

あなたと二人でウォ-キングに出かけましたね。

どこまでも、どこまでも歩けるところまで歩きましたね。

途中で出会った友人の坂井さんが

「絵に描いたような幸せだ」と言って喜んでくれましたね。

どんなどんなプレゼントをいただくよりも、

神様が準備してくださったこの太陽の恵み、この緑、このさわやかな風、

そして、この空気を二人で感じたかったのです。


ポケットに 1500円入っていました。

朝から歩いていましたからお昼が来ましたね。

二人でコンビニに入って、お握りセットとコッペパン一個と

牛乳の小パック一個を買いましたね。

おにぎりは鮭と梅がワンセットでしたね。

あなたが「鮭と梅どっちが言い?」と聞いてくれましたね。

「私は鮭」と言ったら、「君にあげるよ」と言ってくれましたね。

私は嬉しかった。

「牛乳パックのストロ-の差し方が変だ」と

私に理論的に説明してくれましたね。

私はラッパ飲みでも何でも飲めれば嬉しかったのですよ。


いっぱいあなたに幸せをプレゼントしてもらったのだけれど、

こんなささやかな小さな日々の積み重ねが私は欲しかったのです。

あなたには理解できないことかも知れませんけれど、

一緒に泣いたり、笑ったりしたいのです。

夕ご飯も一緒に食べたいのです。いつも寂しかったから。

でも、私は嬉しかった。

あなたが散歩の時に私に語ってくれた言葉

「神様と家庭が大切」だと。

以前のあなたは「自分と仕事」でしたから。

この人生で、

おにぎりとコッペパンがハッピ-なものになりました。

どちらもあんまり好物ではなかったけれど、

この幸せは娘の雅葉にも内緒にしていたい。




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